でも、仕事中は、お客様の前では、無理やりつくった笑顔を貼り付ける。
疲弊しきった心、ぎこちない笑顔。憧れて始めたはずのこの仕事が、いつの間にか心を蝕む戦場になっていました。この日もお客様から指名はゼロ。今日も、彼女の施術は誰にも必要とされていない。
先日、スクールに来てくれたAさんのエピソードを紹介します。
入社して1年。新人とは言えないこの時期に、「リピートゼロ」という事実は、彼女にとって何よりも重い十字架でした。業務委託。お客様からの指名がなければ、当然、給料は増えません。月末の支払いを見るたび、胃がキリキリと痛み、焦りが心を支配する。上司からの「もっと頑張ってください。お客様のリピートを取って」という言葉は、励ましではなく、彼女の無力感を増幅させるだけだったそう。
たまたま担当したお客様からの「前回の人以外の人がいい」という、セラピストからすると不名誉な「逆指名」を受けて・・・
そう思ったそう。
自分なりがんばってて。なぜ一生懸命やっているのに結果が出ないのだろう。なぜ、お客様は二度と戻ってきてくれないのだろう。
技術も知識も人並みには持っているはず。研修も真面目に受けたし、練習もしてる。それでも、どうしてもお客様の心を掴むことができない。指名は増えない。
施術中はただマニュアル通りに手を動かす機械になり、お客様の肌と心に向き合う余裕などありませんでした。いつしか、お客様の顔色を伺い、会話を合わせようと無理をするだけの、疲れた自分になっていったのです。
毎日苦しくて、心の中の小さな声が、日を追うごとに大きくなっていきました。
そんなある日、彼女はSNSである投稿を見つけたそうです。
「技術の上達のためには姿勢や身体の使い方が大事」という言葉に、彼女の心は強く惹かれたそう。藁にもすがる思いで、彼女はSUHADAの単発レッスンを申し込んできたのです。
正直・・・初めて会った時の彼女の顔は、驚くほどのつくり笑顔でした。疲れ切ってる様子で、言葉も少なく、ただひたすら自分の不満と無力感を淡々と語りました。私はそれを遮ることなく、ただ静かに聴きました。
彼女の話を聞き終えた後、私は彼女に聴きました。
技術のレッスンが始まると、練習モデルの肌に触れる指先には、優しさよりも焦りと不安がこもっているようでした。私はこの日、彼女に難しい技術を詰め込むようなことはしませんでした。
ただ、彼女が今まで無意識に力が入って肌を擦るようになる癖をそっと直し、指先ではなく手のひら全体で触れること。指先だけではなく、手の平全体、身体をしっかり使えるよう姿勢をなおしました。お客様の呼吸に合わせて、ゆっくりとしたペースで手を動かすこと。
そして、マニュアルだけではなく、目の前のお客様の肌や身体をしっかり見ること、感じること。目で見て、手で触って、カウンセリングでしっかりと、普段の生活やお肌のことを聞いていくという方法を伝えました。それは彼女にとってあまりに当たり前すぎて見過ごしてきたことだったのです。
私の言葉に、彼女の目にほんの少しだけ光が灯った気がしました。
レッスンが終わってからも、彼女は毎日教わったことを実践したそう。最初は無駄な余計な力を抜くのに苦労し、姿勢や体重のかけ方に苦労したそうです。「こんなことを教わったことはなかった」と思ったと言っていました。
今までのお客様の逆指名で凹んだこと、お客様からの冷たい視線、上司の厳しい言葉を思い出すたびに胃がキュッとなったそう。あんな日々には何もしないまま戻りたくない、このままじゃ続けていけない。仕事が楽しくない、でも楽しく働けるようになりたい、と思い、習ったことが自分のものになるよう、たくさん練習したそうです。
その時のことを、彼女は後から私にこう語ってくれました。
それから彼女の毎日は少しずつ変わり始め・・・
指名のお客様が徐々に増え、お客様に「次の予約はいつにしますか?」と当たり前のように聞けるようになり、実際にリピートが増えお給料も増えていったそう。職場は以前は胃がギリギリと痛むような場所だったけれども、お客様と心を通わせる楽しい場所に変わっていったのです。
あとからもらったAさんからのメッセージにはそう書かれていました。
彼女はその日の出来事を興奮気味に語ってくれました。
私はそのメッセージを何度も読み返しました。
そこにはお給料が増えました、指名が取れました、といった言葉も書かれていました。けれどもそれ以上にお客様が喜んでくれたのが嬉しい、そして仕事が楽しい日々だという言葉が溢れていました。
彼女はリピートが取れないという課題を乗り越え、経済的な安定も手に入れました。
彼女のメッセージを読みながら、私はかつて自分がエステの仕事に絶望しかけていた時のことを思い出しました。その時、私もお客様からの「ありがとう」の一言で、この仕事に人生をかけることを決意しました。彼女の物語は、私自身の物語でもあると感じています。
Aさんが、途中で辞めないでいてくれて本当によかった。諦めないで、現状を変えようと「学び」を選んで、SUHADAのレッスンを選んでくれてよかった。
彼女が最初、リピートされずにお客様の逆指名をもらってしまったのは、彼女の能力が低いからとか、技術が下手とか、人柄が悪いからではなくて。ただ、基礎をしっかり身につけ、可能性を引き出し、正しい方向に導いてくれる誰かや環境が必要だっただけでした。
私の仕事は単に技術を教えることではありません。受講生がお客様を喜んでもらうことで幸せになっていくこと。受講生の可能性を信じ、その歯車を調整し、誰かの人生がちょっと良くなるために。エステやリラクゼーションの仕事が楽しい!と思える、喜びの場所へ変えることなのだと、改めて確信いたしました。